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顎関節症のスプリント治療|スタビライゼーション型を選ぶ理由と注意点

2026年1月17日

こんにちは。東京都中央区銀座5丁目にある
【親知らず・顎関節症クリニック銀座(通称:オヤアゴクリニック)】です。
当院は以下の3つに特化した歯科クリニックです。
* 親知らずの抜歯
* 顎関節症の治療
* アスリートのための歯科治療

くいしばり・歯ぎしり・顎関節症で当院が「まず検討する」理由
「朝起きると顎がだるい」「食事の途中で顎が疲れる」「こめかみが痛い」「顎関節が痛む」
こうした症状の背景に、くいしばり(クレンチング)や歯ぎしり(グライディング)、そして顎関節症(TMD)が隠れていることがあります。
その治療選択肢の一つが、スタビライゼーション型スプリント(stabilization splint)です。日本では「安定型」「ミシガンタイプ」などと呼ばれることもあります。
本記事では、
* どんな人が適応か
* 当院ではどのようなケースに使うのか
* クレンチング用、グライディング用の簡易マウスピースと何が違うのか
* 期待できる効果と限界(エビデンス)
を、できるだけ分かりやすくまとめます。

1. スプリントは「歯を守る道具」ではなく「顎口腔系の負担を調整する道具」
スプリントは、いわゆるマウスピースの一種ですが、目的は単なる歯の保護だけではありません。顎関節や咀嚼筋(噛む筋肉)を含めた「顎口腔系」の負担を調整し、症状を落ち着かせることを狙います。
ただし重要なのは、万能ではないという点です。
スプリント療法は研究数が多い一方で、診断(TMDのタイプ)・装置の種類・評価法がばらばらで、結論が一枚岩になりにくい領域です。近年のシステマティックレビューでも「有効性を明確に断定できるだけの確実な根拠は強くない(確実性が低い)」という整理がされています。
一方で、臨床ガイドラインとしては可逆的(元に戻せる)で侵襲の少ない一次治療として推奨枠に入っている、というのが現実的な位置づけです。日本顎関節学会の2023年版ガイドライン(GRADEに基づく)でも、開口訓練と並んでスタビライゼーション型口腔内装置が一次治療として推奨されています(ただしエビデンス確実性は「非常に低い」)。

2. スタビライゼーション型スプリントは何が違う?
患者さんが混乱しやすいのが「マウスピースなら全部同じでは?」という点です。違いは、設計思想と調整のしやすさにあります。
スタビライゼーション型(安定型)の典型的特徴
* 硬質(ハード)で作ることが多い
* 全ての歯を覆う(フルカバー)設計
* 噛んだときに左右均等に当たるように調整
* 顎を動かしたときに特定の歯に引っかからないように調整(犬歯誘導など)

英国の痛みを伴うTMDのガイドラインでも、フルカバーの安定型は頑丈で、咬合変化(噛み合わせのズレ)を起こしにくい一方、ソフトや部分被覆(前歯だけ等)は咬合変化や痛み悪化を起こし得るため、使用は短期・継続管理下が望ましい、と整理されています。

3. 「クレンチングタイプ/グライディングタイプ」との違い(当院の考え方)
市販品や簡易的なマウスピースは、目的が歯の保護に寄りがちです。ここでは分かりやすく整理します。
クレンチング(くいしばり)対策の簡易マウスピースで起きがちなこと
* 柔らかい素材だと「噛みやすく」なり、逆に力が入る人もいます
* 噛み合わせの当たり方が偏ると、筋肉や関節に負担が残ります
* 調整ができない/しにくいものが多い
グライディング(歯ぎしり)対策の簡易マウスピースで起きがちなこと
* 摩耗を「受け止める」ことはできても、顎関節や筋の負担が減るとは限りません
* 部分被覆タイプは、歯の移動や噛み合わせ変化のリスクがあります(特に長期)
ではスタビライゼーション型は何を狙うのか
* 顎関節と咀嚼筋の負担を、より均一化・安定化させる
* 痛みや筋緊張の悪循環を断つ「きっかけ」を作る
* きちんと作り、定期的に微調整することで、副作用(咬合変化など)を抑えやすい

4. どんな人が適応?(当院でよく適応になるパターン)
当院でスタビライゼーション型スプリントを検討するのは、主に次のようなケースです。
A. 筋肉由来の痛み(咀嚼筋痛・筋膜痛)が疑われる
* 起床時の顎のだるさ、こめかみの痛み
* 食事中に顎が疲れる
* 触ると咬筋・側頭筋が痛い
B. 関節由来の痛み(顎関節部の圧痛・開口時痛)がある
* 開けると顎関節が痛む
* 噛むと顎関節の奥が痛い
※ただし、関節円板障害など病態によっては、開口訓練・理学療法を優先することもあります。
C. くいしばり/歯ぎしりのサインが強い(歯のダメージ予防も含めて)
* 咬耗(歯がすり減る)、知覚過敏
* 被せ物・詰め物がよく外れる/欠ける
* 舌や頬の圧痕、骨隆起(顎の骨のコブ)
D. まず「可逆的・低侵襲」から始めたいTMD
日本顎関節学会のガイドラインでは、一次治療として「開口訓練」と並び、スタビライゼーション型装置が推奨に入っています。

5. 期待できる効果
患者さんが期待しやすいポイントを、誤解が出ないように書きます。
期待できること
* 痛みの軽減(特に筋痛・顎関節痛)
研究では、スプリント療法で痛みが下がる可能性が示されていますが、効果の大きさや確実性は研究により幅があります。
* 顎の動かしやすさの改善(開けやすさ)
* 歯や補綴物の保護(特にブラキシズムが疑われる場合)
ガイドラインでも、TMDとブラキシズムが併存する場合に、痛み管理を補助しつつ歯の損耗を守る目的が述べられています。
期待しすぎない方がよいこと
* 「歯ぎしり自体を完全に止める」治療ではない
* “関節の音(クリック)だけ”を治す目的では推奨されない
英国ガイドラインでも、関節雑音だけを目的にスプリントを使うべきではない、と明確に書かれています。
* 効果は「装置だけ」で決まらず、セルフケア(悪習癖の改善、運動療法、睡眠・ストレス因子の整理)とセットで成績が変わります。

6. 安全に使うための注意点
スプリントは「入れれば安心」ではなく、作り方と使い方を誤ると害になり得る治療です。
* 歯科疾患(虫歯・歯周病の活動性)がある場合は先に治療が必要
* 合わない装置や誤った使用で、痛み増悪や歯の位置変化が起こり得ます
* 睡眠時に使用する装置は、形態によっては睡眠時無呼吸をわずかに悪化させ得るという指摘もあり、既往がある方は慎重に考える必要があります
* 症状が悪化した場合は直ちに中止し、調整・再評価が原則です

7. 当院での進め方
当院では、スプリントを「作って終わり」にしません。むしろ作製後の微調整と、診断の再評価が治療の中心です。
Step 1:診断の整理(ここを曖昧にしない)
* 痛みの主座が「筋」か「関節」か
* 開口障害の有無
* ブラキシズムの関与
* 生活背景(姿勢、集中作業、睡眠)
* 必要に応じて画像評価や鑑別(“赤旗所見”の確認)
Step 2:適応が合う方に、安定型(フルカバー)を作製
英国ガイドラインでも、夜間使用をまず一定期間(少なくとも3ヶ月)という運用が示されています。日中のくいしばりが強い方は、状況により日中短時間の併用を検討します。
Step 3:定期的なチェックと調整
* 当たり方(左右差)
* すり減り方(力の癖の評価材料になります)
* 痛み・開口量・日常生活の支障
* 必要なら運動療法やセルフケアも組み合わせる(一次治療の基本)

8. よくある質問
Q. 市販のマウスピースではダメですか?
症状が「歯の保護だけ」なら役立つこともあります。ただし顎関節症の痛みや開口障害が絡む場合、咬合変化や痛み悪化が起きるとリカバリーに時間がかかることがあります。特に部分被覆タイプは要注意です。
Q. 何日で効きますか?
数日で軽くなる方もいますが、一般には数週〜数ヶ月単位で評価します。少なくとも3ヶ月程度を目安に効果判定する運用が示されています。
Q. ずっと使い続けますか?
症状が落ち着いたら、中止または間欠使用(再燃時だけ)に移行することが多いです。

まとめ:スタビライゼーション型は「顎の負担を整える、可逆的な一次治療」
* スタビライゼーション型スプリントは、くいしばり・歯ぎしり・顎関節症に対し、低侵襲で可逆的な治療として位置づけられます
* ただし効果は個人差があり、研究の確実性は高いとは言い切れません
* だからこそ当院では、適応の見極めと作製後の調整・再評価を重視します
顎の痛み、開けにくさ、食事のしづらさ、朝のだるさ。
「年齢のせい」や「疲れのせい」で片づけず、まずは状況を整理して、最短距離で楽にしていきましょう。



オヤアゴ院長ブログ
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監修歯科医師

医療法人社団GRIT 理事長
親知らず・顎関節症クリニック銀座 院長

小嶋 隆三Ryuzo KOJIMA

〔院長略歴〕
鶴見大学歯学部卒 総合歯科
医療法人 麗歯会 加藤歯科医院 勤務
医療法人 UG会 多田歯科医院 勤務
医療法人 清明会 静岡リハビリテーション病院 非常勤 勤務
2013年 小嶋デンタルクリニック開設
2023年 医療法人社団GRIT 設立
2023年 コロンビア大学歯学部歯周病学分野所長兼准教授(1987-2015)、台北医科大学教授、学部長(2017-2023)ピーター・ワン先生の講座へ入局
2024年には、グローバルインプラントブランド「DIOインプラント」において、日本一の年間実績(症例数)を達成。
難症例や骨造成を伴うケースにも精通し、確かな診断力と精緻な技術で遠方からの患者も多く、信頼を集めている。

〔所属学会・所属団体〕
歯科医師臨床研修指導医
公益社団法人日本歯科先端技術研究所 インプラント認証医
BPS(精密義歯)クリニカル国際認定医
公益社団法人日本口腔インプラント学会
ISOI(国際口腔インプラント学会) インプラント認定医
日本顎咬合学会
日本スポーツ歯科学会
日本抗加齢医学会
日本歯科医師会