親知らず抜歯で上顎洞に穴が開いたら?―上顎洞穿孔の原因と治療
こんにちは。東京都中央区銀座5丁目にある
【親知らず・顎関節症クリニック銀座(通称:オヤアゴクリニック)】です。
当院は以下の3つに特化した歯科クリニックです。
・ 親知らずの抜歯
・顎関節症の治療
・アスリートのための歯科治療

上の親知らずを抜歯する際、
「上顎洞に穴が開くことがあります」
と説明を受けたことがある方もいるかもしれません。当院でも必ず上顎抜歯の際はその合併症について説明させていただいております。
「穴が開く」と聞くとかなり心配になりますが、上顎の奥歯と上顎洞はもともと非常に近い位置に存在しています。
そのため、特に上顎の親知らずが深く埋伏している場合などでは、適切に抜歯を行っていても上顎洞と口腔内が交通することがあります。
今回は、親知らず抜歯後に起こることがある「上顎洞穿孔」について解説します。
そもそも上顎洞とは?
上顎洞とは、鼻の横から頬の奥に存在する空洞で、副鼻腔の一つです。
上顎の小臼歯や大臼歯、とくに奥歯の歯根は、この上顎洞の底と非常に近接していることがあります。
人によっては、
・歯根と上顎洞との間に十分な骨がある
・薄い骨一枚だけで隔てられている
・歯根が上顎洞内へ突出しているように見える
など、解剖学的な個人差があります。
そのため、上顎の親知らずや大臼歯を抜歯すると、それまで歯や薄い骨によって隔てられていた部分に小さな交通路ができることがあります。
これを「口腔上顎洞交通(Oro-Antral Communication:OAC)」と呼びます。
上顎洞と近接する上顎臼歯の抜歯は、口腔上顎洞交通の代表的な原因です。
なぜ親知らず抜歯で起こるのでしょうか?
特に注意が必要なのが、上顎の親知らずが深く埋伏しているケースです。
親知らずの位置によっては、歯冠や歯根のすぐ上に上顎洞が存在していることがあります。
他クリニックからの紹介がメインの当院は、他院で抜けない深い埋伏した親知らずを抜歯することが多いのですが、
この場合、
「抜歯操作によって上顎洞に穴を開ける」
というより、
「もともと歯と上顎洞との間にほとんど骨が存在していないため、歯を取り除いた結果として交通する」
というケースもあります。
つまり、必ずしも抜歯操作上の問題によって生じるものではありません。
もちろん術前にはレントゲンや、必要に応じてCT・CBCTで上顎洞との位置関係を確認しますが、解剖学的に非常に近接している場合、リスクを完全にゼロにすることはできません。
上顎洞と交通すると、どんな症状が出る?
小さな交通の場合には、患者さん自身がまったく気付かないこともあります。
一方、比較的大きな交通がある場合には、
・飲んだ水が鼻の方へ抜ける感じがする
・口から鼻へ空気が抜ける感じがする
・抜歯した場所から空気が漏れる
・鼻をかんだ時に抜歯部から空気を感じる
・片側だけ鼻水や鼻づまりが続く
などの症状がみられることがあります。
ただし、自分で確認しようとして強く鼻をかんだり、鼻をつまんで空気を送ったりすることは避けてください。
せっかく形成され始めた血餅を動かし、交通を大きくしてしまう可能性があります。
穴が開いたら、必ず手術が必要?
ここが重要なポイントです。
上顎洞と交通したからといって、すべてのケースで大きな手術が必要になるわけではありません。
治療方法は、
・交通している穴の大きさ
・血餅が安定しているか
・上顎洞に炎症があるか
・抜歯直後なのか、時間が経過しているのか
などによって判断します。
文献上もサイズの基準には多少幅がありますが、感染がなく、ごく小さな1〜2mm程度の交通であれば、血餅が安定することで自然閉鎖する可能性があります。2〜5mm前後では、縫合や止血材、コラーゲン製剤、PRFなどを用いて血餅を安定させる方法が選択されることがあります。
つまり、
「上顎洞穿孔=すぐに大きな手術」
ではありません。
穴が大きい場合はどうする?
交通が比較的大きい場合には、自然治癒だけに任せると閉鎖しない可能性が高くなります。
一般的には5mm前後を超えてくるような交通では、局所の状態も含めて外科的閉鎖を検討します。ただし5mmという数字だけで判断するわけではなく、感染の有無や欠損の形、組織の状態などを総合的に評価します。
代表的な方法には、
・頬側の歯肉を移動させて閉鎖する「頬側進展弁」
・口蓋側の歯肉を回転させる「口蓋弁」
・頬の内側に存在する脂肪組織を利用する「頬脂肪体弁」
などがあります。
比較的大きな欠損では、頬脂肪体を利用した閉鎖法も有効な方法の一つです。2024年のシステマティックレビュー・ネットワークメタ解析でも、頬脂肪体を用いる方法について良好な閉鎖成績が報告されています。
そのまま放置するとどうなる?
小さな交通で自然に閉鎖する場合は問題ありません。
しかし、閉鎖しないまま口腔内と上顎洞が交通し続けると、口腔内の細菌や食物残渣などが上顎洞へ入り込み、上顎洞炎を起こす可能性があります。
さらに時間が経過すると、交通路の表面が上皮化して「口腔上顎洞瘻(Oro-Antral Fistula:OAF)」と呼ばれる慢性的な状態になります。
こうなると自然閉鎖は期待しにくくなり、外科的な閉鎖が必要になることがあります。
そのため、比較的大きな交通が確認された場合には、できるだけ早期に適切な処置を行うことが重要です。
上顎洞炎を起こしている場合
すでに、
・頬の痛み
・鼻づまり
・膿性の鼻汁
・嫌な臭い
・上顎洞内への液体流入
などがみられる場合には、上顎洞炎を併発している可能性があります。
この場合は、単純に穴を閉じればよいというわけではありません。
感染した状態で表面だけを閉じてしまうと、上顎洞内に感染源を残してしまう可能性があるためです。
必要に応じて抗菌薬などによって感染をコントロールし、耳鼻咽喉科と連携して治療を行います。
慢性化した歯性上顎洞炎などでは、内視鏡下副鼻腔手術(ESS/FESS)と口腔側からの閉鎖を組み合わせて治療することもあります。
穿孔した後に気をつけること
上顎洞との交通が確認された場合、術後の過ごし方も非常に重要です。
特に避けてほしいのが、
強く鼻をかむことです。
鼻腔内の圧力が上昇すると、閉鎖しようとしている傷口に圧力が加わります。
くしゃみをするときも、できるだけ口を開けて圧力を逃がします。
また、
・強いうがい
・喫煙
・ストローなど強く吸う動作
・傷口を舌や指で触る
なども避け、まずは血餅を安定させることが重要です。
上の親知らずだから危険、というわけではありません
上顎の親知らずは下顎の親知らずと比較すると、比較的短時間で抜歯できるケースも多くあります。
一方で、
・完全埋伏している
・上顎洞と非常に近い
・歯根形態が複雑
・歯が上顎洞方向に位置している
といった場合には、単純な抜歯とは異なる注意が必要です。
大切なのは、
術前に解剖学的位置を把握すること。
そして、もし上顎洞との交通が生じた場合に適切に対応することです。
上顎洞との交通は、上顎臼歯部の抜歯では解剖学的に起こり得る合併症です。
発生したことそのものよりも、
「どの程度の交通なのか」
「自然閉鎖が期待できるのか」
「外科的閉鎖が必要なのか」
「上顎洞炎を併発していないか」
を正しく判断することが重要です。
親知らず抜歯後に、
「水を飲むと鼻へ抜ける感じがする」
「抜歯したところから空気が漏れる」
「片側だけ鼻の症状が続いている」
といった症状がある場合には、そのまま様子を見るのではなく、一度ご連絡ください。
オヤアゴ院長ブログ
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監修歯科医師
医療法人社団GRIT 理事長
親知らず・顎関節症クリニック銀座 院長
小嶋 隆三Ryuzo KOJIMA
- 〔院長略歴〕
- 鶴見大学歯学部卒 総合歯科
医療法人 麗歯会 加藤歯科医院 勤務
医療法人 UG会 多田歯科医院 勤務
医療法人 清明会 静岡リハビリテーション病院 非常勤 勤務
2013年 小嶋デンタルクリニック開設
2023年 医療法人社団GRIT 設立
2023年 コロンビア大学歯学部歯周病学分野所長兼准教授(1987-2015)、台北医科大学教授、学部長(2017-2023)ピーター・ワン先生の講座へ入局
2024年には、グローバルインプラントブランド「DIOインプラント」において、日本一の年間実績(症例数)を達成。
難症例や骨造成を伴うケースにも精通し、確かな診断力と精緻な技術で遠方からの患者も多く、信頼を集めている。
- 〔所属学会・所属団体〕
- 歯科医師臨床研修指導医
公益社団法人日本歯科先端技術研究所 インプラント認証医
BPS(精密義歯)クリニカル国際認定医
公益社団法人日本口腔インプラント学会
ISOI(国際口腔インプラント学会) インプラント認定医
日本顎咬合学会
日本スポーツ歯科学会
日本抗加齢医学会
日本歯科医師会

